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執筆者の写真佐是 恒淳

『種痘の扉』第四章五節

 五節「浅草向柳原」では、玄朴がいかに策をこらし蘭方医学を再び隆盛に導くか、苦闘する場面が描かれます。蘭方医学は、いっとき人気になったあと、シーボルト事件(文政11年、1828)と蕃社の獄(天保10年、1839)で弾圧され、長い事、苦しい立場に置かれます。玄朴の画策が無ければ、隆盛を取戻すことは随分遅れたと思われます。

 玄朴の起死回生の策は牛痘種痘にありました。これを利用すれば、漢方医学を打ち破れるとの読みは、半分当たりました。残り半分は何だったか、それはこの後の玄朴の活躍に描かれます。

 結局、蘭方医学の系譜は明治に引き継がれ、堂々たる西洋医学となって今日に到ります。漢方医学と地位が逆転しました。

























ネムノキに花が咲きました。夜、小葉が合わさって

眠るように見えるので、この名がついたとか。

合歓の木とも言います。

ほわーっと咲く薄桃色の花を亡父が好きだった

ことを思い出しました。











閲覧数:11回2件のコメント

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2 comentários


北薗 洋藏
北薗 洋藏
25 de jun. de 2023

佐是様、毎回ありがとうございます。


シーボルト事件、蛮社の獄以降の翻訳出版規制の部分では太平洋戦争の時期の言論統制を思い浮かべました。SNS全盛である現在も様々な問題はあるにせよ、言論の自由は保障されるべきだと思っています。

伊東玄朴の牛痘種痘普及への意欲は勿論、今後発揮されるであろう政治力が楽しみです。

また、鍋島斉正、伊達宗城など進取の精神に富んだ大名と繋がりを持てたことも政治力を備えた玄朴の実力だったのではないでしょうか。


「残り半分」が気になります、次回以降に期待です。

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佐是 恒淳
佐是 恒淳
25 de jun. de 2023
Respondendo a

北薗様、

毎週、コメントを賜りありがとうございます。


幕末には、西洋の新思想と日本の伝統が大きな対立軸になりました。文化、学術的には、例えば西洋博物学(植物)と日本の本草学(薬草学)、西洋天文学・暦学と日本の天文学・暦学などでは、日本人は大きな対抗心なく西洋の思想を取り入れました。

一方、医学では、ある一派は西洋医学を取り入れましたが、チャイナ(支那)の影響を受けた伝統的な漢方医学の一派は西洋医学に相当、反発したようでした。政治的には、西洋の新知見を取り入れ開国貿易を通じて富国強兵を進めようとする一派と、尊王攘夷を唱える一派が強く対立しました。


日本の歴史において、強く外国の文物に影響を受ける時期がありました。遣隋使、遣唐使を派遣した古代では、あたかも現在の英語のように、漢文を学んでチャイナ(支那)の文物を輸入してきました。しかし、取り入れるべきでないものはきちんと排除し、日本の伝統を守りながら摂取してきました。そうしたやり方を「和魂漢才」といい、日本の伝統を踏まえ取捨選択を慎重に考慮した外国文化の導入が意識されていました。遣唐使廃止後、支那文化の影響が減少すると、国風文化が興りました。漢字から派生させたひらがなを使い和文文学が発展したのです。


こうした伝統文化と外国新思想の対立軸で日本の歴史を観るいい材料が幕末にはたくさんあります。寛政暦は高橋作左衛門の父親至時によって完成されますが、西洋天文学を多いに取入れたものでした。ラランデの天文学書を読み込んだ日本人に出会って、ゴロウニンが驚く場面は第二章八節「蝦夷箱館」のも書いたとおりです。

ターヘル・アナトミア以降の蘭方医学に驚く日本人と西洋医学は日本人には効果の低い医学だと喚く日本人が共存していました。当然、両者は陰湿な争いをやっていました。幕府政治レベルでは、シーボルト事件、蕃社の獄です。高橋作左衛門や高野長英を無惨な死に追い込みました。国の損とは思っていないのです。

医者のレベルの対立、抗争の狭間で、牛痘種痘が、特に江戸で、もみくちゃにされるのも、この小説の重要な視点です。漢方医は自分たちの飯のたねがかかっていますから、出版統制くらい、平気でやってのける雰囲気でした。


島津重豪や島津斉彬、伊達宗城、鍋島閑叟などの蘭癖大名は単に西洋文物を面白がっていただけではないでしょう。厳格な幕府の管理下にある外国貿易を自分でやりたいとの望み、外国文物を取り入れ外国軍事力に対抗したいとの望みなどなど、思惑があって外国文物好みを表現したのでした。そういう人材は幕府にこそたくさんいました。「和魂洋才」と言われる上手な外国文物の取り入れに成功した明治において、日本は大きな発展をとげました。


                                 恒淳  


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