この頃、欧州ではナポレオン戦争が繰り広げられ、オランダも亡国の憂き目を見ます。長崎に商船を派遣することができなくなり、長崎出島に駐在するオランダ人は祖国と連絡を絶たれる大変な境遇に置かれます。この長い、不安な、先の見えない辛い時期に、商館長ドゥーフが編んだ辞書が後年、日本蘭学界に大きく貢献します。ズーフ・ハルマと言われる蘭和辞書です。勝海舟が二式を筆写し、一部は自らの勉強用、一部は売ってお金を稼いだというエピソードは有名です。かように蘭学を志す書生が必ずお世話になった辞書が、こうした経緯で編まれたことを知って、私はしばし感慨にとらわれたことを思い出します。
最後は、佐十郎が結婚し、その岳父の所有した別荘を作左衛門が訪問するところを書きました。向島の牛島にあったそうで、切絵図などを見ながら当時のこのあたり一帯の情景を想像するのは楽しいことでした。江戸の郊外、このあたりはよほど美しい地域だったようです。私は三囲神社などを訪れたことがありますが、このあたりにそれは美しい田園風景が広がっていたと想像しながら散策したものです。いよいよ、佐十郎の大きな活躍が始まります。
恒淳
牛島の別邸もこんな感じだったかと?
佐是様、毎週楽しみにしています。
祖国がどうなるか分からない状態の中、蘭和辞書制作に取り組むドゥーフの精神力は感動ものです。他の商館員も大変な時期を過ごしたことでしょう。
勝海舟が貧乏生活の中、本の書写で生活費を稼いでいたことは何かで読みましたが、それがドゥーフの蘭和辞書だったとは、断片的な記憶が結びつくとうれしくなります。
いよいよ、佐十郎の活躍や牛痘種痘に進展が見られそうで次回以降も期待しています。