佐十郎がオスペンナヤ・クニーガを翻訳する場面を書きました。佐十郎がいかに苦心して翻訳し「遁花秘訣」に仕上げたか、史料はありません。ただ、佐十郎の年譜から、この二年間、他の著作がないことは追えるので、おそらくこの仕事に集中したことが窺えます。
この節は、私の創作です。精勤ぶり、妻の心遣い、天文所での扱いなど想像しながら書きました。史実ではありませんが、おそらくこうだったはずであると思うところを描きました。この箇所で、厳格な史料の枠の外に一歩踏み出し、窓の外の創造の世界が許されるのが小説ではないか、と思いました。このサイトのトップページに載せた明月院(鎌倉)の丸窓とその先の緑の木々のアナロジーが思い浮かんだものでした。
佐十郎が大仕事を終え、妻を連れて物見遊山に行き、その労をねぎらうというのは、佐十郎を追う小説では重要な要素になります。勉強一筋の佐十郎の活躍の中に、心温まる1ページがあってもいい。佐十郎夫婦には存分に秋の一日を堪能してほしいと思い、この辺りの風景、地理など調べたことがつい、この間のような気がします。
佐是様、毎週ありがとうございます。
身命を賭して「オスペンナヤ・クニーガ」翻訳に取り組む佐十郎の姿に圧倒される思いです。
タチシチェフ仏露辞書二巻をすべて覚えてしまうなど、天与の資質と根気、天然痘治療への使命感がなければ不可能だったのではないでしょうか。加えて「遁花秘訣」の序の締め括りの謙虚さが心に残ります。
川船での王子の紅葉狩り、のんびりと風景を楽しむ佐十郎夫婦が目に浮かぶようでした。