夏休みがもう終わります。私は新たな作品を掲載することにしました。今回は、田沼時代の世俗風俗をたっぷりと取り入れた連作集の初めの作品で、馬場文耕を取り上げました。
馬場文耕は、宝暦年間に活躍した講釈師で、もともと貸本作者として一世を風靡した作家でした。いくつかの作品が残っていますが、生れ、経歴、人間関係など、多くの謎に包まれています。『日本古典文学大辞典 第五巻』岩波の馬場文耕の項が最も詳しい記述とされますが、それとて、わずか1頁です。
文耕は、貸本作家から講釈師(講談師)となり、毒舌、風刺の利いた芸風が、大人気を取ったようです。次第に、大名の奥向きのこと、御家騒動の内実など、とんでもない醜聞を取上げ、余人の追従を許さぬ質、量の情報を講釈に盛り込みました。果ては、評定所で審議している郡上藩の一揆の件を高座に架けました。江戸の庶民は大名家の内奥の秘密を聞きたさに連日押し掛け、文耕の高座は賑わいました。これが災いしたか、最後は、幕府に捕らえられ獄門の刑とされました。ここまでの極刑を受けた芸人、作者は江戸時代にいません。
文耕は、若い頃、職を失い売卜で糊口をしのいだ
佐是様、本作品で江戸時代中期の庶民文化の知識を得ることができそうです。楽しみに読んでいきたいと思います。
最近、初心者向けの近松門左衛門の文庫本を読んだばかりで、江戸時代の芝居小屋の雰囲気を自分なりに思い描いていたところでした。若い頃は見向きもしなかった浄瑠璃や芝居興行などの雰囲気も知りたいと思うのは、やはり歳のせいでしょうか。
江戸時代の庶民世相、芸能などを想像しながら読み進めていきます。