第二章四節「蛍に祈る」では、家重の一周忌を前に、倫子が大奥内泉水に蛍を放して家重を偲ぶ情景が描かれます。かつて倫子は、生後一年を満たさず千代姫を喪い、悲嘆にくれていました。家重から贈られた蛍によって、傷心の倫子はようやくなぐさめられたのでした。家重一周忌の前日、再び蛍を放ち、倫子は家重を偲ぶと同時に、明日に向けて一歩を踏み出す勇気を得た気持ちになりました。
実は、意次が家重に奨めて、傷心の倫子に蛍を贈るよう手配したのでした。その縁が、今度は倫子から依頼され家重を追悼する蛍を手配することにつながりました。意次は、それとわからぬよう、蛍によって、家重、家治、倫子の間に心の安らぎをもたらしたのでした。これが家重一家に尽くす意次の忠義でした。こういう細やかな心配りのできる人でした。
意次が倫子に説得しなければならないのは、家治に側女をおき男児出生を期待することでした。倫子の心を傷つけないよう意次がいかに説得したか、この節で語られます。それもあって、倫子は側女が間近く出産する状況でも、おおらかな心持で過ごすことができました。
一方、意次は勘定奉行石谷清昌に長崎奉行を兼任させ、長崎貿易の利潤を幕府財政へ組み込む策に乗り出しました。長崎貿易は運用によっては大きな利が得られます。このところ停滞気味だった長崎貿易の管理体制を一新させ、利潤を幕府財政にいかに取り込むか、長崎で、石谷清昌がいかに八面六臂の活躍をしたか、このあとの節で語られます。お楽しみになさってください。
戸隠に水芭蕉が咲いていました。当たりの湿原一杯に咲き誇り、凛冽たる雪解け水と共に、北信州の早春を彩っていました。きれいな水のせせらぎは耳に快いものでした。
石谷清昌の長崎奉行としての動きが楽しみです。
また伊奈半左衛門忠宥も活躍するような気がします。
時代は少し遡りますが、富士大噴火からの復興で活躍した伊奈半左衛門忠順を新田次郎の小説で読んだことがあります。伊奈家にも傑出した人物が多く出ているのでしょう。
種々の施策などで表に出ることはまずないと思いますが、大奥の倫子の動きにも期待しています。