第一章四節 「闇を開く」では、将軍家重が意次を評定所の正式メンバーに送り込み、郡上藩の全藩一揆の審議に参加させるいきさつが描かれます。
そもそも、評定所は幕府の高次司法を扱い、表職の最重要機関です。御側御用人、御側御用取次に代表される御側衆とは全く別の職務で、厳格に区別されていました。だから御側御用取次の意次が評定所の正式メンバーになるなど幕閣幕僚にとって驚天動地の人事でした。
重要な側職を重要な表職と兼務させるという人事は将軍でなければ決してできなかったに違いありません。将軍は老中の言うことに従っていればいい、側衆は将軍の側近く侍っていればいい、と考える門閥譜代や主だった幕臣を圧倒する必要を家重は感じていたのです。幕府の中枢を握り続けたい旧勢力に対して将軍家重が一撃を繰り出したということになります。
老中が将軍家重の許に出向き、こうした人事はおかしい、止めるべきだと諫言したかもしれません。それでも家重は己の考えを押し通したのです。これだけの見識を示し幕政改革に乗り出した家重が愚鈍であったはずはないのです。政治の動きを見れば、意次を使いこなした有能な将軍だと考えるほうが自然だと思うのです。
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