第二章三節「儲けを正す」では、大阪で米価の暴落が予想されるため、意次と石谷が打った手立てが描かれます。まず、空米切手により証券化された米が実物より多く流通していますから、これを抑制しました。空米切手禁止令です。さらに豪商から力づくで徴収した御用金七十万両を基に資金を大坂金融市場に流し、在庫の米を買うよう誘導する一方で空米切手買取の費用を手当てしました。大坂金融市場を逼塞させず、米価暴落をかろうじて防いだ手法は、立派な経済政策でした。
御用金は、将来、冥加金、運上金などの商人への課税方法を確立する第一歩になりました。農民が年貢によって税負担するように、商人だって税負担すべきだと意次は考え、その徴税手法を見出すきっかけとなりました。いまでもサラリーマンに比べ、自営業者への課税は難しいもので、意次は、徴税根拠をどのようにするか悩んだ人です。
次に打った手は、大坂発行の銀為替を禁止し、銀を江戸に現物輸送させることでした。大阪の銀を江戸に吸収し、大阪の銀安傾向を是正するとともに、将来の銀貨新鋳用の銀地金を確保するためです。当時、大坂、江戸間の送金、送銀は為替によって行われ、書面が行き来するだけで金貨、銀貨の実物が東海道を移動するわけではありませんでした。この政策によって為替商は大きな儲け口を失い落胆します。
いずれの話も、江戸時代経済史に沿って小説の語り口で描いたつもりです。
前半部分は、米相場下落防止の短期経済対策と理解しました。
御用金が将来の商人への課税を勘案したものだとは考えが及びませんでした。
また、一挙に為替手数料と大口資金の運用益を取り上げられてしまった豪商たちの慌てぶりが目に浮かびます。
貨幣新鋳の狙いや豪商たちの対抗策が気になります。