長行と勝の話に端を発し、二人はあの手この手を繰り出し、三条か姉小路と、しがらみにとらわれないように話を交わし、世界情勢、軍事技術を踏まえて、攘夷論の非を説得しようと図りました。多くの手が却下、不成功になるなか、ついに勝の操艦する順動丸に姉小路が搭乗して摂海を視察する機会が訪れました。
欧米軍事技術の塊りである軍艦に乗って、実物を見せながら欧米の軍事力を説くほど説得力あるものはないと思われます。確かに勝の説得は効いたのです。姉小路は考えを変えたかに見えました。しかし時代の急流は、考えが間違っていたので改めます、と素直に言えないところまで突き進んでいました。文久三年4月、5月は、歴史の大急流が流れゆく感じがします。
この章は、長行の数奇な生い立ちから始め、時代に引き寄せられるように老中格に任命され、英国のニールと交渉しつつ、国内情勢を見極め、ついに44万ドルを支払ってしまうところで終わります。『四本の歩跡』も半分まできました。後半、まだまだ長行は登場します。
次回からは、第三章 貧の遺恨-実美 を開始します。今度は、尊皇攘夷の立場に立つ公卿の視点で時代が語られます。どうぞ、宜しくお願いします。
文久三年春、二條城はあたかも幕府が移ってきたかの感がありました。将軍を始め、老中水野、板倉、小笠原、総裁職の一橋慶喜、後見職松平慶永(春嶽)、京都守護職松平容保、山内容堂、伊達宗城らが集まって、苦しい討議を交わしたことでしょう。
佐是様、
長行、勝の公卿説得工作は、まずは成功とみます。
但し、空論に洗脳状態の攘夷過激派は簡単には翻意するとは考えられず、今後の長行の策略も注目です。
幕末維新について、倒幕勢力あるいは幕閣の立場ではよく考えたりしますが、公卿の考え方の変遷は私には盲点になっていたようです。朝廷内部の攘夷派、公武合体派などの勢力図など、次章からの展開も楽しみにしております。