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執筆者の写真佐是 恒淳

『四本の歩跡』第二章第十五節「沖つ潮風」

 長行と勝の話に端を発し、二人はあの手この手を繰り出し、三条か姉小路と、しがらみにとらわれないように話を交わし、世界情勢、軍事技術を踏まえて、攘夷論の非を説得しようと図りました。多くの手が却下、不成功になるなか、ついに勝の操艦する順動丸に姉小路が搭乗して摂海を視察する機会が訪れました。

 欧米軍事技術の塊りである軍艦に乗って、実物を見せながら欧米の軍事力を説くほど説得力あるものはないと思われます。確かに勝の説得は効いたのです。姉小路は考えを変えたかに見えました。しかし時代の急流は、考えが間違っていたので改めます、と素直に言えないところまで突き進んでいました。文久三年4月、5月は、歴史の大急流が流れゆく感じがします。


 この章は、長行の数奇な生い立ちから始め、時代に引き寄せられるように老中格に任命され、英国のニールと交渉しつつ、国内情勢を見極め、ついに44万ドルを支払ってしまうところで終わります。『四本の歩跡』も半分まできました。後半、まだまだ長行は登場します。

 次回からは、第三章 貧の遺恨-実美 を開始します。今度は、尊皇攘夷の立場に立つ公卿の視点で時代が語られます。どうぞ、宜しくお願いします。





文久三年春、二條城はあたかも幕府が移ってきたかの感がありました。将軍を始め、老中水野、板倉、小笠原、総裁職の一橋慶喜、後見職松平慶永(春嶽)、京都守護職松平容保、山内容堂、伊達宗城らが集まって、苦しい討議を交わしたことでしょう。

閲覧数:6回2件のコメント

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2 Comments


北薗 洋藏
北薗 洋藏
May 04

佐是様、


長行、勝の公卿説得工作は、まずは成功とみます。

但し、空論に洗脳状態の攘夷過激派は簡単には翻意するとは考えられず、今後の長行の策略も注目です。

幕末維新について、倒幕勢力あるいは幕閣の立場ではよく考えたりしますが、公卿の考え方の変遷は私には盲点になっていたようです。朝廷内部の攘夷派、公武合体派などの勢力図など、次章からの展開も楽しみにしております。

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佐是 恒淳
佐是 恒淳
May 08
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北薗様、

第二章の終わりまで、長いご愛読を感謝申し上げます。その都度、参考になるコメントを頂戴し、時には、史蹟の写真まで頂戴し、励みにさせています。ありがとうございます。


これまで、運命的な力に引きよせられるように幕末の幕閣に入り、苦しい立場で必死に幕府を守ろうとした二人を描きました。あとから見れば、ほんのちょっとしたことが契機となって幕末の急流に飛び込まざるをえなかった二人でした。いままでの価値観、概念が通用しない時代になって、本当に自分の頭で考え、苦渋の選択を強いられながら、必死に頑張る姿を史書で知って、感銘を受けました。

筆調が好意的になるのを意識しながら、それでいいと自分に言い聞かせてきました。従来の薩長英雄伝説にかなり批判的だと思われる読者の方もいらっしゃると思います。私なりに丁寧に史料を読んだ結果だと、これまでの見方を気にせずに書くことを方針としました。

賠償金を払うにしても、一筋縄ではいかず、払うと決めても、実に大掛かりな作業が必要だったことを知って、驚いたことを思い出します。


次章からは公家の視点で書きます。国家観に関して、公家がいかに頼りなかったか、なぜこんなに頼りなくなってしまったのか、開国と攘夷の対立軸がいかに成立したか、など、私が自分の疑問点を調べる過程で、わかったことを基に書きます。これからもどうぞ宜しくお願い致します。


返信が遅れましたる段、お詫び申し上げます。

                          恒淳


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